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研究・調査活動―シンポジウム・ワークショップ

中国研究データベース・ワークショップー「国際シンポジウム・デジタル化時代の中国研究―台湾と北米の経験から」

・日時:2008年2月3日(日) 13時〜17時
・会場:(財)東洋文庫3階講演室
・報告者と報告テーマ:
第1セッション 司会:田中仁(大阪大学大学院法学研究科教授)
・黄克武(中央研究院近代史研究所研究員、胡適記念館主任)
「資料デジタル化における重要な成果と、その歴史研究に対する影響」
・張哲嘉(中央研究院近代史研究所副研究員、ハーバード・イェンチン研究所訪問研究員)
「ハーバード大学東アジア研究部門における教育研究資料のデジタル化への対応―半年間の経験と収穫」
・川島真(コメンテーター・東京大学大学院総合文化研究科准教授)

第2セッション 司会:久保亨(信州大学人文学部教授、東洋文庫客員研究員)
・荘樹華(中央研究院近代史研究所文書館主任)
「台湾のナショナルデジタルアーカイブプロジェクトの紹介、及びデジタル化された公文書の持つ可能性とそのリスク」
・大沢武彦(コメンテーター・国立公文書館アジア歴史資料センター)

報告概要
    本シンポジウムは東洋文庫現代中国研究資料室の主催で、中国研究データベース・ワークショップの一環として行われた。シンポジウムの冒頭、同資料室長の高田幸男が挨拶で述べたように、IT技術が日進月歩している環境で、その技術をどのように利用し、資料情報の提供や資料の収集と公開とどのように結びつけるのかというのは現在の中国研究が抱える大きな問題であり、そのような問題意識から本シンポジウムは開催された。当日は大雪が降っていたが、会場は終始熱気に溢れ、参加者の熱心な議論により予定の時間を超えてしまった点からも、デジタル化に対する研究者の関心の高さが伺えよう。

(1)黄克武氏の報告
    胡適研究を例として、胡適記念館のデジタルアーカイブ(http://www.mh.sinica.edu.tw/koteki)を中心に、デジタル化された経緯、利用方法および成果などを紹介した。胡適記念館は2000年から档案のデジタル化とデータベースの構築を本格的に推進しはじめた。そのデータベースは「胡適日記検索システム」と「胡適档案検索システム」に分けられ、主に1949年以後の胡適の日記、手紙、草稿、写真などを収録している。現在のところ、目録検索はネット上において公開されているが、約2万件の資料の画像は公開されてはいないものの、申請手続きをとることでウェブで見られると語った。

(2)張哲嘉氏の報告
    ハーバード・イェンチン研究所での体験をもとに、デジタルデータベースの利用およびハーバード大のデジタル化発展戦略について説明した。よりよくデータベースを利用するために、図書館のスタッフやハーバード大学の教員たちは常に初学者に向けてデジタルデータベースの講習会を開いている。また、中国研究のリンク「Research Guide」や文献管理ソフトウェア「Endnote」は検索や研究にたいへん役立つものであること、そして、ハーバードでは図書館スタッフのサポート体制も整備されていることなどを述べた。一方、ハーバード大学はほかの学術機関と提携して、デジタルデータベースの構築に積極的に取り組んでいる。例えば、中央研究院との古籍善本データベース、復旦大学との協力のもとつくられたGISデータベース(http://www.fas.harvard.edu/~chgis)およびハートウェル(Hartwell)教授が寄贈した宋代官僚データベースが現在の重点である旨紹介した。

(3)荘樹華氏の報告
    台湾のナショナルデジタルアーカイブプロジェクト(http://ndap.org.tw) および中央研究院近代史研究所における資料デジタル化の成果を紹介し、それがもたらす可能性とリスクを指摘した。ナショナルデジタルアーカイブプロジェクトでは、档案文書のほかに、古籍、書画、考古、地図、動植物など幅広いデータベースを有している。また、近代史研究所が推進しているデジタル化プロジェクトは、漢文の古典や有名人の日記など多くの資料を収録し、近代の外交、経済档案および戦後台湾経済発展に関する档案のデジタル化も行われている。デジタル化した資料の利用にあたって、デジタル化は研究に対して便利さをもたらす一方、データベースにおけるデータの完全性や正確性に対して懸念を示した。

   このように、各報告はデジタル化が急速に発展している中で、デジタルデータベースの生産者と利用者の側面から、台湾、アメリカの成果や動向を概括した。また、台湾の中央研究院近代史研究所の所長である陳永発氏や北京大学歴史系の教授である徐勇氏なども含めた一般参加者との質疑や議論においては、日本や中国の状況にも触れられており、多地域の視点からデジタル化時代の中国研究のあり方を改めて考えるきっかけともなっていた。    議論においては、以下の3点が焦点になった。

   1.資料デジタル化の選定問題
   どの資料をデジタル化するのを、だれがどう決めるかという問題に対して、台湾ではデジタル化の基準は定着していないことが明らかになった。基本的には資料の重要性と必要性を考慮して決めるという原則だが、専門や意見の違いにより一定の基準を作るのは難しい。具体的なやりかたは各機関の判断によりそれぞれである。ただし、張氏からは、実際問題としてお金と権力を持っている人が、どの資料のデジタル化を決めるのか決定権を持っているという興味深い見解もあった。

   2.デジタル化された資料の利用の可能性と限界
   デジタル化技術は資料の保存に大きな役割を果たしたが、研究者が利用する際に、全面公開、公開制限、アクセス制限、未公開という様々な状況がある。また、デジタル化された資料は一次資料といえるのか、原本が見られるかという疑問がある。
   これに対して、黄氏と荘氏はそれぞれ胡適記念館と近代史研究所の例を挙げて説明した。要するに、個人情報や国家機密など特別な場合でない限り、目録および全文の公開は可能である。現在胡適記念館と近代史研究所は目録の検索は自由に使えるが、全文の閲覧には一定の申請手続きをする必要がある。それは利用者がどのような人物であるのか、それによって今後の運営やデジタル化の方針決定に役立てたいという理由によるものであるが、アジア歴史資料センターのように、使用者の声に耳を傾け、データベースの不具合を改善する考えもある。
   また、参加者からはデジタル化した資料とオリジナルの資料との区別を注意しなければならないという意見も出た。デジタル化は一種の技術媒介のため、資料への考証や批判的検証はもともと不可欠である。さらに、歴史学者からは、オリジナルの資料が見られなくなる問題も提起された。

   3.デジタル化と学界との関係
   デジタル化の作業は非常に重要で、学界の研究にも影響が大きいと思われる。だが、目的によってデジタル化に対する考え方も異なる。例えば、档案館は主にアーカイブ資料を保存する需要があるのに対して、研究者はよりよく研究を進めるために、資料の利用を中心としている。さらに、デジタル化に資金を投入する機関は、ある程度の経済的利益も期待している。一方、その作業を行うには、大量の資金のほか、アーカイブやITに熟達した人材も必要である。つまり、デジタル化に対して、学者はどんな働きができるのか、学者への問いに向き合うのかという問題が残されている。

   デジタル化の際の、研究者の参加について、荘氏は歓迎の態度を示した。資料のデジタル化には、画像そのものと内容細目との一致性や正確性を常に確保しなければならないため、それは一般的なアーキビストや専門業者がカバーできないところもあると考えられる。研究者が主にアーカイブ利用の末端となる現状に対し、資料のデジタル化の構築にはより多くの歴史学者が参加する可能性を提示した。 以上の三つの焦点を踏まえ、さらに資料デジタル化の際の具体的な技術や知的財産権などの問題についても、会議参加者もまじえて積極的な議論が行われた。

(なお、正式な参加記として本文を加筆修正したものを中国近現代史研究を専門とする学術雑誌『近きに在りて』近刊号に掲載予定である。参照されたい。)

報告者紹介
黄 克武(Huang Kowu)…

2001年スタンフォード大学博士課程修了、Ph.D。現在、中央研究院近代史研究所研究員、胡適記念館主任。専門は近代中国思想史。
張 哲嘉(Chang Chechia)…
1998年ペンシルバニア大学博士課程修了、Ph.D。現在、中央研究院近代史研究所副研究員、ハーバード・イェンチン研究所訪問研究員。専門は近世から近代までの東アジア医療史。
荘 樹華(CHUANG Shuhua)…
中央研究院近代史研究所档案館主任

コメンテーター紹介
川島 真(かわしま しん)…
1968年生まれ。1997年東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得退学。2001年博士(文学)学位取得。現在、東京大学大学院総合文化研究科准教授。専門は東アジア国際関係史。
大沢 武彦(おおさわ たけひこ)…
1973年生まれ。2005年東京都立大学大学院人文科学研究科博士課程修了、博士(史学)。現在、独立行政法人国立公文書館アジア歴史資料センター研究員。

文責・
薛軼群(東京大学大学院総合文化研究科博士課程)

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