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研究・調査活動―シンポジウム・ワークショップ

中国研究データベース・ワークショップー「中国における映像アーカイブと中国研究への応用」

・日時:5月16日(金) 18:00〜21:00
・会場:(財)東洋文庫3階講演室
・報告者と報告テーマ:
長井暁(NHK放送文化研究所主任研究員、東京大学大学院客員准教授)
「中国における映像アーカイブと中国研究への応用」

・コメンテーター:
山内隆治(株式会社東宝ステラ)

 20年間にわたってドキュメンタリー番組を制作していた長井氏は、その経験を生かし、中国の映像アーカイブについて発表された。

  代表的な中国の映像アーカイブとしては、中国中央電視台(CCTV)傘下の①音像資料館、②新影制作中心と、独立している③中国電影資料館がある。①は60〜70年代のニュース・記録映像を約3000巻、80年代以降の番組とニュースを約80万本保存している。②は、1949年以降に製作されたニュース映画、記録映画を所蔵する。②がCCTVの傘下に入ったことにより、建国から現在までのニュース映像と記録映画が網羅できることになる。なお、①は2008年末までに約35万時間(CCTVの番組映像の約9割)をデジタル化する予定で、システム的には100万時間まで保管が可能。②もフィルム映像のデジタル化を進めており、2008年末までに約1,000時間、2011年末までに約2500時間をデジタル化する予定で、将来インターネットなどを通じて有料で公開する予定である。③は、①②に対して映画に特化したアーカイブで、約27,200本の各種映画を所蔵するほか、満映製作の娯民映画108本などがある。現在、国家予算2.8億元(約42億円)が投入されデジタル化が進められており、2010年までに約5,000本の映画フィルムをデジタル化する予定である。

  以上が中国の映像アーカイブの現在の概要で、続いて記録映画が歴史研究に応用された例を2点挙げられた。第一は、記録映画「近代春秋 第四集 辛亥浪潮(1986年)」である。映画に出てくる辛亥革命の記録映像が、日本に残された梅屋庄吉関係資料の写真資料と照合した結果、梅屋庄吉が派遣した撮影隊が撮影し、日本では失われた記録映像の断片だとわかった。第二は、「中ソ友好同盟相互援助条約調印式(1950年)」を撮影した記録映像だ。この条約は中国にとって有益なものとされたが、記録映像を見ると、毛沢東は憮然とし、周恩来は沈痛な表情をしている。矛盾を感じてこの条約についての調査を進めたところ、条約には秘密協定が存在し、中国東北と新疆におけるソ連の特権、有事の際のソ連軍による中国長春鉄道の自由な利用などが認められていたことが明らかとなった。よって、記録映像によって歴史の新たな一面が明らかになるといえる。

  次に記録映画についての説明が行われた。記録映画とは、中国共産党政府が識字率の低い国民に政策を伝えるメディアで、政府の意向を代弁したものと位置づけられる。便宜的に記録映画を3つの時期に分けると、(1)毛沢東時代(1953-1976年)、(2)華国鋒時代(1976-1980年)、(3)鄧小平時代(1980-1993年)となる。各時期の特色をみると、Iは新中国のすばらしさを宣伝するとともに、大衆動員の手段として利用された。記録映画は大躍進、文化大革命の推進に大きな成果をもたらした。Ⅱは、毛沢東路線の継承を宣伝したもので、同時に「4つの現代化」の実現が呼びかけられた。Ⅲは、歴史決議によって文化大革命を完全に否定して鄧小平体制を確立し、改革開放路線の推進を宣伝している。このように、記録映画には各時期のもつ特殊性が象徴的に表れている。

最後に、映像の研究利用への課題が二点指摘された。第一は、映像へのアクセスの問題だ。多くのアーカイブは研究目的での利用は想定されておらず、今後研究利用を前提としたアーカイブの整備が期待される。第二は、映像資料批判の難しさがある。これは長井氏独自の分類であるが、映像資料には〔事実〕(事件発生時に撮影)、〔再現A〕(事件の発生直後に現場で撮影)、〔再現B〕(後日事実に基づき現場で撮影)、〔創作〕(事実と異なるフィクション)があり、その識別が困難である。例えば、「中国人民の勝利(1951年)」は、今まで〔事実〕とされてきたが、中国の研究者によって〔再現A〕であることが証明されている。この種の問題が多々予想され、映像の研究利用は困難が伴うことは不可避である。

東宝ステラ 山内隆治氏
 東宝ステラの山内隆治氏からは、日本の映画アーカイブの現状について報告がなされた。例として挙げられた映画は、GHQのCIE(民間情報教育部)が作成した「赤の陰謀」である。当時日本の半数を占めていた農民が共産化することを恐れていたCIEは、国民の再教育のため1000本以上の映画を製作した。「赤の陰謀」は、冷戦状況を反映した貴重な記録映画であるが、この映画は私蔵されていたに過ぎず、公的に保存されていたわけではない。そのような映画は多く存在すると考えられる。

 日本における映像のアーカイブとしては、東京国立近代美術館フィルムセンター(http://www.momat.go.jp/FC/fc.html)や放送番組センター(横浜)があるが、記録映画やニュース映画も半数程度しか残っていない(フイルムセンターに残っているのは、記録映画は約1万5000タイトルの内、約7000タイトル、ニュース映画は約9000タイトルのうち約5000タイトルに過ぎない)。なお、有料でその内容を見ることができる。

 映画の所有権と著作権が複雑なこともあり、日本のアーカイブ状況は芳しくない。

質疑応答
1 まず、メタデータの付け方について質問がなされた。NHKも中国でも状況は似ていて、基本的には映像番組への利用を想定しているため、ディレクターがキーワード検索しやすいようになっている。たとえばCCTVは、台本やナレーションを元に、映像ごとに章(チャプター)とそれを細分化したカット表に対応した説明がデータベース化されている。しかし、番組への映像利用と研究への映像利用は異なるはずで、NHKは現在東大の情報学環と共同研究中である。先進的な技術を有するフランスのINAは、検索機能があるだけでなく、即座に分析できるよう年代別のグラフや表を作成できる機能がある。また、中国の電影資料館は、映像資料のみでなく、関連資料(ポスター・スチール写真)を徹底的に収集しており、順次デジタルデータベースに加えている。

2 記録映画は中央宣伝部のもとでつくられていたか、という質問については、否定された。記録映画は文化部で作られ、中央宣伝部によって企画・台本・完成段階でチェックを受けるものの、中央宣伝部が作ったという訳ではない。しかし、共産党の指導は絶対的だといえる。

3 記録映像についての中国の研究者はいるのか、という質問に対しては、2名の研究者がいるとのことだった。ひとりは電影資料館の方で、さきの「中国人民の勝利(1951年)」が〔再現A〕だとわかったのはその研究の成果である。

4 中央電影資料館で公開している映像は、何らかの媒体にコピーして入手可能なのか、という質問については、有料でフィルムは見られるが、すべて見られるわけではなく、基本的にコピーは不可、とのことだった。一部はDVDで販売されている。その点、フランスは先進的で、映像こそコピーできないものの、静止画をパソコンに取り込み、それに自身でコメントを打ち込んだものをCD-ROMに焼いて持ち帰れる。その利便性から、デジタルアーカイブを利用した博士論文が200本程度も出ている(日本は2本程度)。この点をみても、デジタル化は研究利用への大きな可能性をもっている。

結論にかえて
日本のデジタルアーカイブ化は、先進国の中でも大きく遅れ、テレビ番組の場合NHKは残るが民放は残らず、記録映画すら残らないという状況が懸念される。今後の発展が期待される。

報告者紹介
長井 暁(ながい さとる)…

1987年東京学芸大学卒業後、NHK入局。番組製作ディレクターとして、「張学良がいま語る」、「毛沢東とその時代」などを製作。現在、NHK放送文化研究所主任研究員。東京大学大学院総合文化研究科客員准教授を兼任。

コメンテーター紹介
山内 隆治(やまうち りゅうじ)…
日本映画新社にて映像アーカイブ業務に従事。現在、株式会社東宝ステラ日映アーカイブ映像営業室室長。

文責・
石田智美(東京大学大学院総合文化研究科修士課程)

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