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研究・調査活動―シンポジウム・ワークショップ

東洋文庫研究部近代中国研究班公開シンポジウム「華北の発見」(東洋文庫現代中国研究資料室協賛)

・日時:2月12日 9:20~17:30
・会場:(財)東洋文庫新本館2階講演室
・報告者:久保亨、松重充浩、富澤芳亜、吉澤誠一郎、張利民、浅田進史、内山雅生、弁納才一、佐藤仁史、瀧下彩子、リンダ・グローブ(Linda Grove)、江沛、張思

 2012年2月12日、東洋文庫にて東洋文庫研究部近代中国研究班が主催し、当室が協賛を行った公開シンポジウム「華北の発見」が開かれた。以下、報告者の報告内容を簡単に紹介する(以下、敬称略)。
 本庄比佐子氏による開会挨拶では、東洋文庫近代中国研究班では十数年にわたって戦前・戦中の日本における各種機関の中国調査報告の研究を行ってきた。これらの研究を通じて、「華北」地域の概念が曖昧であることを認識したため、今回は、多くの研究者から「華北」についての様々な見解を提起していただくことを願う、と本シンポジウム開催の経緯が述べられた。

 「第1部 地域概念としての華北」では久保亨、松重充浩、富澤芳亜、吉澤誠一郎、張利民、浅田進史の6名による報告が行われた。久保報告では、華北という地域概念は1930年代までは日本の中で希薄な概念であり、経済的な要素を基礎として1930年代の日本の大陸侵略によって浸透していったことが指摘された。松重報告では、戦前日本の「華北」認識形成過程において、外地の日本人社会はどのような役割を担ったのかを問題意識に、『朝鮮及満洲』誌を利用して、満州事変前後の華北認識を考察した。富澤報告は、神戸大学新聞記事文庫を駆使して華北認識の変遷を考察したものであった。新聞記事を考察した結果、日本に「華北」を定着させたのは日本の中国侵略によって現地の日本企業、行政機関、現地政権が同概念を多用したことに原因があったと指摘した。続いて、吉澤報告では「華北」概念を考察するために、「西北」という地域概念を用いた。吉澤は「華北」「西北」の両地域概念から明らかなとおり、地域概念の定義とは曖昧な性格を持つがゆえに力を発揮していると指摘した。張報告は1980年代以来、中国大陸では華北地域を対象とした研究が数多く世に問われてきたことを概観し、同地域研究者の研究人員や研究状況、今後の展望、研究状況への提言などを行っている。第1部の最後は浅田報告であり、独中関係から華北概念を見た場合、両国の政治・経済関係が深まるほどに、ドイツの利益と関心に即して「華北」区分が出現し、そして、ドイツにとっての「華北」概念は地域概念を超えて実体的な概念として変容していったと締めくくった。
 昼食をはさんで、午後から「第2部 華北の農村と社会」のセッションが行われた。午後の報告者は内山雅生、弁納才一、佐藤仁史、瀧下彩子、リンダ・グローブ(Linda Grove)、江沛、張思の7名であった。内山報告は、戦前日本の中国農村研究者である天野元之助、福武直、平野義太郎の議論を整理した結果、戦前における同研究分野では「華北」の概念規定が不十分なまま農村の実態だけが紹介されていた、と指摘した。続く弁納報告では1930-1940年代の農村経済調査から、「華北度(華北らしさ)」という独自の概念を用いて、「華北」の地域概念の定義を試みている。その結果、小麦生産を基準とすると、河南省や江蘇省は「華北度」が高く、高粱・栗・玉蜀黍の生産が高かった河北省や山東省は「華北度」は低かったと分析した。佐藤報告では江南農村と華北農村における祠廟について比較研究を加えた結果、華北農村の孤立性や凝集性という特徴が浮かび上がってきたことが指摘された。そして外国史研究に携わるものにとって、自国史を踏まえた比較研究の視点を練磨することが必要であると提言した。瀧下報告では、1920年代の温泉ブームに伴い、満洲の温泉が注目されるようになると、日本人旅行者は青島を入り口として華北への観光を期待するようになったことを踏まえ、1938年以降になると観光案内所の整備に伴って華北・華中への旅行が具体的なイメージとして認識されていったと結論付けた。リンダ・グローブ報告では、后夏寨でのフィールド調査を例に挙げて国家政策と経済の相互関係が論じられている。そして現在の后夏寨の生態学的環境、社会的環境、経済的環境、政治的環境の4点に渡って現状分析が行われた。江沛報告は、近代中国における鉄道網の整備とそれによって生じた運輸業と商業の進展は、交通機能を持つ天津・青島・石家荘・鄭州の隆盛をもたらしたことを確認し、そして、こうした種類の都市の形成は華北経済と社会の近代化のなかで重視されるに値する現象であると評した。本セッションの最後は張報告であった。張は南開大学では華北4省9村の地方档案を利用して農村社会の歴史の再検討を行い、村落レベルでの資料収集は、農民が吐露した艱難辛苦を記録するだけでなく、彼らの生きた時代を肌で感じることにもつながるだろうと指摘した。
 以上、13人の報告が行われ、最後に総括討論が行われて本シンポジウムは終了した。

報告者等紹介
久保亨(くぼ とおる)…信州大学人文学部教授、(財)東洋文庫客員研究員
松重充浩(まつしげ みつひろ)…日本大学文理学部教授、(財)東洋文庫客員研究員
富澤芳亜(とみざわ よしや)…島根大学教育学部教授、(財)東洋文庫客員研究員
吉澤誠一郎(よしざわ せいいちろう)…東京大学大学院人文社会系研究科准教授、(財)東洋文庫客員研究員
張利民(ちょう りみん)…天津市社会科学院研究員
浅田進史(あさだ しんじ)…首都大学東京都市教養学部助教
内山雅生(うちやま まさお)…宇都宮大学国際学部教授、(財)東洋文庫客員研究員
弁納才一(べんのう さいいち)…金沢大学経済学部教授、(財)東洋文庫客員研究員
佐藤仁史(さとう よしふみ)…一橋大学大学院社会学研究科准教授、(財)東洋文庫客員研究員
瀧下彩子(たきした さえこ)…(財)東洋文庫研究部主幹研究員
リンダ・グローブ(Linda Grove)…上智大学名誉教授、ハーバードイェンチン研究所顧問
江沛(こう はい)…南開大学歴史学院教授
張思(ちょう し)…南開大学歴史学院教授

文責・
土肥歩(東京大学大学院博士課程)

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